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全国大学生ピアノ選手権 全国大会


もう…震えた。

リストのラ・カンパネラを弾くことに決めたという尚生君。第1回全国大学生ピアノ選手権の全国大会に向けて、高校生以来のレッスンに来てくれた。

ラ・カンパネラは近年さらに有名になっていて良く演奏を耳にする。たいていはとても興奮気味の熱い演奏が多い。

そういう解釈も素敵ではあるけれど、実は楽譜を丁寧に読むと、そうは書かれていない。

実に軽やかなテクニックが要求されており、必死で弾くというよりはサラリと見事に弾いてほしい感じ。

一般受けを狙うならペダルもガンガン使って華やかに仕上げた方が良いけれど、リストの要求はちょっとそうではなさそう。

「楽譜にはこう書いてあるね。でも、最終的には自分で決めて弾いて!」
とアドバイスした。私が伝えたのはあくまでもリストの楽譜からの読み解きだけ。

たった1回のレッスンだったからその後どうしたのかも分からないままの今日の本番。

『どうすることにしたかな?』と楽しみに聞いた。
イントロダクションが終わり本編が始まった時に、『おっ!』と思った。
尚生君はリストの要求に従うことを選んだことが分かった。

この決断はものすごく勇気が要る。ペダルでごまかせない奏法だから確実なテクニックが要求される。

なのに、信じられないほどの軽やかさで美しい響きが紡がれていく…。

尚生君は最初に出会った小学生の時から抜群の音のセンスの持ち主だった。しかし、今目の前で演奏している尚生君は私が見てきた彼のどのステージよりもその才能に舌を巻かざるを得なかった。

思い切って作品の本質について伝えて良かった、と心から思った。

大学生になり自力でピアノに向かうようになってから素晴らしく成長していて、やはり自発性に敵うものは無いのだということを思い知らされる。

苦手としていたバロック作品についても「レッスンで学んだ作品群を徹底的に復習したことで分かってきたんです!」と自力で取り組んだバッハのパルティータの録画を送ってきてくれたことがあった。
確かにしっかりと理解して演奏していることがはっきりと伝わってくる演奏だった。

そして今日の演奏。

同じ東北大学のチームメイトたちが2人ともショパンを演奏していたのだが、その演奏で私は尚生君たちを引率していったポーランドでの国際コンクールのことを思い出していた。

アントニンというポーランドの小さな街で開かれた青少年のための国際コンクール。

その時も、尚生君の演奏後には多くのブラボー👏👏👏が飛び交った。モスクワ音楽院で学んでいる学生さんが指導者である私を探して声をかけてきて、「あなたのマスタークラスはどこで受けられるか?」と聞いてきた。当時の私はマスタークラスなんて考えたこともなかったけれど、その彼は尚生君の演奏を聞いていたく感動し、その指導者である私の指導を受けたいと思ってくれたようだった。そのくらい聞く人を魅了する演奏をするのが尚生君だ。

いつの間にかお酒も飲める年になった尚生君のさらなる可能性の光を見出せた今日のコンサート。

あんな演奏に出会えるなんて、本当に嬉しかった。多分この演奏は一生忘れないと思う。